インスタントコーヒーとレギュラーコーヒーの違い
1974年10月1日コーヒー党の機関誌「珈琲共和国」より
一ヶ月程前のことです。日珈販の配送センターに自社の自動販売機に日珈販で販売している高級コーヒー豆「ぽえむ」を使いたいので、ぜひ卸してほしいという引き合いがありました。
日珈販はコーヒー豆の卸売業者ではありませんので、加盟店以外には供給できないことを申し上げてお断りしたのですが、あとから考えてみるとオカシナ話なのです。
と申しますのは、話の様子では使いたいという対象はインスタントコーヒー用の自動販売機なのです。「ぽえむ」はレギュラーコーヒー。一体どうして使おうというのでしょう。
私の考えでは、話をしに来られた方は、インスタントコーヒーというものはレギュラーコーヒーをゴク細かく挽いたものであると思っていられるのではないでしょうか。それで、美味しいという評判の「ぽえむ」というコーヒー豆を買って細かく挽いて使えば、美味しいコーヒーが自動販売機で抽出できるとお考えになったに違いありません。
コーヒーについての知識を十分にお持ちの方には、ナンセンスかも知れませんが、案外、インスタントコーヒーとはどんなものか知らない人が多いようです。
インスタントコーヒーは正確には「ソリブル(可溶性)コーヒー」といって、コーヒーの抽出液を乾燥、または凍結分離させて抽出液中の水分を除出したものをいいます。
水や湯に簡単にとけ、コーヒーの溶液を作ることから、インスタントコーヒーの愛称で呼ばれ、コーヒーの抽出液を凍結させ水分が氷となって、分離するのを利用して作ったものをフリーズドライと呼びますが、最近ではフリーズドライが人気を呼んでいるようです。
インスタントコーヒーの良さは、なんといっても手軽さですが、その欠点は致命的ともいえる味の悪さです。それは、インスタントコーヒーがコーヒー液を抽出した上で脱水するという工程を得るため、どうしてもその過程で酸化しやすいということなのです。
ご存じの通り、コーヒーの抽出液は実に不安な物質で、なかでもタンニンはすぐに酸化してピロガロール酸という嫌な味の物質に変わるだけでなく、酸化したタンニンは水に溶けにくくなりますので、折角のインスタントコーヒーの味が水っぽくなったりします。
しかしわが国では、インスタントコーヒーの伸びのおかげで、レギュラーコーヒーの愛好家もふえているのですから、あまり馬鹿にしたものではありません。
偉そうな能書きをいっているコーヒー店にしても、何杯もコーヒーをとりだめして、客の注文に合わせて温めて出してくるような店のコーヒーは、インスタントコーヒーよりはるかにまずいものが多いようです。
それもそのはずでしょう。手間ひまかけてレギュラーコーヒーを淹れるということは、少しでも新鮮なコーヒーを飲もうということなのですから、インスタントコーヒーが、いわばたてざましのコーヒーであるとすれば、コーヒー屋のコーヒーがまずくて飲めたものではないということはいうまでもありません。むしろ、インスタントコーヒーの方が美味しいくらいです。