なぜ美味しくない家庭で飲むコーヒー


1974年12月1日コーヒー党の機関誌「珈琲共和国」より
kyowakoku1974-12-150-240
 私の友人にとてもコーヒーの味にウルサイ男がいます。自他ともに許すコーヒー通だそうで、彼の勤め先に私が訪ねたりすると、近くのコーヒー専門店へひっぱっていかれ、専門家の私がスッカリお株をとられるようなコーヒーに関する知識をブチあげられたりします。
 その彼のお住居へ、先日、急に用ができておじゃまいたしました。
 私どもの同年代ではなかなかやり手の彼の住居は、わが家のようなマンション住いではなく、一戸建の豪邸でした。そして、かねてから美人の噂の高い奥様がシズシズとコーヒーを持って現れたのですが、そこでユカイな事件が起こったのです。
 そのコーヒーがインスタントコーヒーだったのです。
 日頃コーヒー通と威張っている彼ですから、その時の慌てようは気の毒なぐらいでした。
 彼は色々と弁解するのですが、結論をいえば家ではインスタントコーヒーで我慢しているということなのです。私はその彼の弁解を聞きながら、逆に、彼の舌は自分が今まで考えていたより、もっとコーヒーに関して正確な味覚を持っているように思えたのです。
 それはどういうことかといいますと、彼は奥さんに命じていろいろなコーヒー器具を買いこみ、いろいとなコーヒー売場からコーヒー豆を買って来て、いろいろと試してみたが、結局、現在飲んでいる輸入品のフリーズドライタイプのインスタントコーヒーに勝るものがなかったということなのです。
 実をいうと、私もこのような考えの持主なのです。正直なところ、今ブームのコーヒー専門店で出しているコーヒーなんていうものは、ごく一部を除いてただコーヒーの卸屋さんの持って来た豆をサイホンで淹れて出すといった程度のものでしかありません。
 「ぽえむ」のようにコーヒーの原料生豆の買付けから、加工方法にまで焙煎業者をコントロールしているところは殆ど皆無といっていいと思います。
 ですから、お客様はコーヒー専門店の持つムードや演出に酔わされて、そこで出されるコーヒーが美味しいと思いこまされてしまいますが、本当は、コーヒーの味そのものは大して美味しいコーヒーではないのです。それにわが国のコーヒー業界が品質なんかお客様に判りっこないという考えに立って、いたずらに粗悪な安値の原料豆ばかり買いあさっている限り、美味しいコーヒーが製造されるわけがありません。
 私は馬鹿の一つ覚えのようにいっているのですが、そんなことをしていると今にコーヒーそのものを飲む人が減ってしまいます。
 コーヒー愛好者の方たちがはそれと知らず、家庭で淹れても美味しくないコーヒーの原因を自分の淹れ方の悪いせいだと思いこまされて、大して美味しくもないコーヒーに高いお金を払っているわけです。
 悪い豆を使って、美味しいコーヒーが淹れられるわけがありません。
 私の友人も「ぽえむ」のコーヒーとペーパーフィルターのセットを一式プレゼントしたところ、自宅でも本物のコーヒーが飲めると大喜びでした。
 そんなことを考えあわせると、わが国のコーヒー市場で良質の豆が扱われるようになると、コーヒー党の皆さんはいつでもどこでも美味しいコーヒーが飲めるし、コーヒーの消費も増えて、業者も儲かると思うのですが、いかがでしょう。
 業者は、喫茶店のオヤジさんたちがコーヒー豆の値段を値切るからだといいますが、真相はどうなんでしょう。どちらにせよ、コーヒー党の皆さんがムードや演出に惑わされず、本当においしいコーヒーを選ぶことが一番大切のようです。