近くコーヒー代が大幅値上がりする? -知られざるコーヒー協定をめぐって- 


1972年9月・10月合併号 コーヒー党の機関誌「珈琲共和国」より
珈琲共和国1972年9、10月
 去る8月14日から9月3日まで、ロンドンにおいて国際コーヒー機構の総会が開催された。この会議は珈琲生産国の代表と消費国の代表が、珈琲の輸出入割当てについて取決めをする会議である。
 われわれ巷のコーヒー党にとっては遠過ぎる話で、紋次郎バリにアッシにはカカワリアイのないことでゴザンスといいたいところだが、今回のそればかりは、日本のコーヒー党にとって注目すべき会議であったのである。というのは、この会議の動向いかんによっては、日本における珈琲の輸入価格が値上がりし、その必然的結果としてわれわれの珈琲の値上がりも避けられない事態となることが明白であったからである。円切り上げ、輸入品の値下げが叫ばれる今日、純然たる輸入品である珈琲が時代に逆行する値上げとは誠に不可思議な話であるが、これには一般のコーヒー党には知られない事情があるのである。
 国際コーヒー機構に加盟する消費国と生産国の間には、5年を単位として珈琲協定が結ばれている。その中にニューマーケット条項というのがある。これは、従来の日本のように珈琲の普及率の低い地域に対しては、生産国がその普及促進の目的をもって低級品の珈琲を安く輸出しようというものである。ところが実際にその制度を運用してみると、一応その効果により日本などの珈琲消費量の拡大は企てられたものの、他に大きな不合理を惹き起こすこととなった。というのは、アメリカ・ヨーロッパなど伝統的な市場に確固たる販路をもつ先進国はいいとしても、新市場にその販路を求めざるを得ない新興生産国にとって、そのニューマーケットなる条項は単に珈琲の安売りを強制させられる制度にしかすぎなかったのである。つまり、ヨーロッパなどに売込んでも買ってもらえず、仕方なく日本などへ売れば安値を強いられるという訳である。そこで、これら新興諸国は、この制度を撤廃しフリーな価格での取引を要求してきているのである。幸い今回の会議では、一応議題にはならなかったのであるが、しかし議題にならなかったということは、珈琲協定5年目の期限である来年9月をもって、ニューマーケット条項は次の協定より削除されることが既定の事実という考えが、関係者間において定説化されているからなのである。
 では一体、ニューマーケット制が撤廃されたら珈琲豆は輸入価格でどのような値上がりをするのであろうか。業界筋の一致した見方では、高級品は値上がりなし、低級品は100パーセント位、平均50~60パーセントの値上がりとなっている。従来の行き方であると、日本のコーヒー業界は、アート・木村・UCCの三者がプライスリーダーとなって大方の価格を操作することができた。ところがこれを契機に日本のコーヒー業界を一気に支配せんとする外資もあり、また、全三者も各々商社をバックに業界支配をねらっており、値上がり分を消費者に肩代わりさせることはないとみられているが、それでも20~30パーセントの値上げは避けられない模様である。
 さて、珈琲豆が値上げになったらわれわれの珈琲はどうなるのだろうか。ズバリいって、喫茶店の珈琲については値上げの口実にはならない。なぜならば喫茶店の珈琲代は大半が人件費その他の経費であるから、珈琲代の値上げは何ら問題とならないのである。
 では、店頭で売っている珈琲豆の値段はどうなるであろうか。その点については次号で詳しく述べたい。