珈琲野郎のコーヒー党宣言 コーヒー専門店は食品産業である
1973年5月1日コーヒー党の機関誌「珈琲共和国」より
【小田急、コーヒーの香を拒否する】
日珈販が、コーヒー売店の実験店として計画していた小田急経堂ビルショッピングタウンへの出店が、小田急側の拒否により中止となりました。
私は小田急さんから拒否された理由については、天下の小田急さんのことですから、私共のようなチッポケな会社に貸すことが気に入らなくても全く文句をいう筋合いではないとご理解申し上げているわけですが、その拒否の理由が気に入りません。拒否の理由は「コ―ヒーの臭いが、他の業種に迷惑を及ぼす」というのです。特に、商店街の化粧品屋さんが反対なさったということなのですが、これはますます納得できません。
一体、コーヒーの香りというものは、他に迷惑を及ぼすものなのでしょうか。
最近我が国のコーヒーの消費量は急速に伸びて、遂に世界で7番目の消費国になったといいます。つまりそれだけ沢山の方がコーヒーを愛飲されているということになります。
喫茶店で飲まれるばかりでなく、家庭でもどんどん飲まれる時代です。私共日珈販のチェーン全体のコーヒー販売量をみても、月間取扱い量1500キロのうちその65パーセントにあたる1000キロは売店で売られています。ということは、コーヒーの量でいえば65パーセントは家庭で飲まれているということなのです。しかもこの傾向は一層強くなり、近いうちに家庭で飲むコーヒーは全消費量の70パーセントを越えるだろうと予想されています。
このように大衆の中に浸透し、定着化しつつあるコーヒーの香りを、他に迷惑を及ぼすものとして取り扱われることは、コーヒー党として絶対に納得するわけにはいかないのです。
化粧品の合成された匂いが、コーヒーの天然の香気よりも良質だという考え方は間違っていると思いますし、そのように考えるから有害な着色料の入った食品や毒入り油を食べさせられたりするのだと思います。
【コ―ヒー専門店とは何か】
さて、コーヒーの不当な取り扱いについての抗議はこの位にして、この商談に関連して考えさせられたのは、コーヒー専門店というと喫茶店の一種であるという考えが非常に強いということです。
恐らくこれは、コーヒー専門店を経営なさっている方たちについてもいえるのではないかと思うのですが、もうそろそろコーヒー専門店も先に述べたように、コーヒー自体が商品としても十分に一人立ちできるようになってきたわけですから、食品産業だという認識に立って考えてごらんになってもいいんじゃないかと思います。
考えてみれば、コーヒー豆の消費量からみれば、家庭用のほうが多くなりつつあるというのに、コーヒー専門店といえば、依然としてコーヒーを飲ませる喫茶店というのでは、どうも話の筋道が立たないような気がします。
今回の小田急さんの問題にしてみても、コーヒー専門店がお茶屋さんや乾物屋さんと同じ業種なんだという認識を関係者の方がお持ちになれば、また別の結果も得られたかと思います。
結局は、われわれコーヒー専門店を経営するものが目先の商売しか考えないでコーヒー専門の喫茶店で甘んじていたり、焙煎業者にしても、家庭用・業務用各々の将来を見透かしていながらその日暮しに気をとられて、コーヒー業界全体の育成という業界の死命を制する問題に取組まないでいると、今に大変なことになってしまいます。
私にいわせれば、特に焙煎業者の方は、共同焙煎だ、製造の合理化だという美名の下に行われる商社の市場支配の手口にひっかからないで、もっと、業界のリーダーとして実のある仕事をしていかないと、焙煎業者自体の存在価値がなくなってきます。
商社といえば、コーヒー業界は商社の市場支配の手口のサンプルみたいなものです。まず価格の上昇を押さえて弱小業者を潰し、市場占有率が大きくなると今度は価格を自由に操作するというやり口が、そのまま適用されているようです。
コーヒー業界は、いわば無菌状態のところへ病原菌が入って来るようなもので、その抵抗力のなさが心配です。商社の市場支配になると、商社は価格だけでなく品質まで支配するのは明らかで、そうなると採算のみを重視した不味いお仕着せのコーヒーを飲まされることになるわけで、それがわれわれコーヒー党には我慢できません。
そうならないために、焙煎業者やコーヒー専門店の方たちには、大いに頑張って頂きたいと思います。