コーヒー党宣言 もう一度考えてみたい ぽえむの役割
1974年3月1日コーヒー党の機関誌「珈琲共和国」より
私が家内と2人で始めたパパ・ママストアだったぽえむも7年4ヵ月の間に21店舗のチェーンストアにまで発展しました。
私がまだカウンターの中でコーヒーを淹れていた当時ですと、お客様のお一人お一人から直接にいろいろご意見をお聞かせ戴けたのですが、最近ではそのような機会も少なくなってしまいました。
私共のように不特定多数のお客様を相手にしている場合では、このようにお客様から離れてしまうことは大変危険なことなので、なるべく機会を設けてお客様とお話することに心掛けてはいるのですが、その場合でも古くからの馴染みのお客様がお相手になってしまいます。
≫目安箱を開いてみると…≪
そこで、最近私共のお店をお引立て下さるような方のご意見など是非うかがってみたいと思い、ぽえむの目安箱なる制度を設けましたところ、意外に多くのお便りを戴きました。
その内の一部を本誌に掲載させて戴きましたが、皆さん実に熱心で、非常にありがたく拝見致しました。
概しておほめの言葉が多かったのは“お礼にコーヒー券を差し上げます”ということだったせいのようですが、中には手厳しいご意見も沢山ありました。
その中で、ひどく気になったのは、美味しくなくても良いから安いコーヒーを飲ませてくれというご意見と、値上げをするなとかチェーン店の数を増やすなというご意見でした。
美味しくなくて良いから安いコーヒーを飲ませろというご意見は我々にとって誠にショッキングなもので美味しい品質の良いコーヒーの提供を至上命令とし営業してきた我々としては、全く異質な考え方に意表をつかれた思いがしました。
値上げをするなというご意見は確かに皆さんの切実な要望でしょうが、前月号でも書いた通り、やむを得ません。
最近の新聞に出ていましたが、“学生街の80円コーヒーにお店が店じまいした”という記事が載っていました。よく読んでみると80円コーヒーだったのは一階の4席だけで2階の30数席は150円だったようです。
値上げするなら廃業した方がよいとの店主の弁ですが、私はそうは思いません。
たとえ値上げをしても頑張るべきだと思います。その店は開店5年目だそうですが、その5年間、その店を引き立ててくれたお客様の心はどうでしょうか。お客様にとっては、自分の大事にしていた店が順調に育っていくのはうれしいことの筈です。それを儲かる時だけやって儲からなくなったら廃業ではムシの良すぎるような気がします。
180円のコーヒー代をとってもいい加減なコーヒーしか飲まさず、サービスの悪い店が多い今日、お代は世間並でもコーヒーの味やサービスでお客様に奉仕することによって実質的に安いコーヒーを飲んで戴くことも大切だと思います。
コーヒー代の値上げはやむを得ないでしょうがコーヒーの味やサービスを低下させないよう頑張って下さい、というお便りも戴きましたが、特に急所をつかれた感じでした。
3番目のチェーン化の問題ですが、お客様の皆様はチェーン化することによって本部が儲けているようにお考えのようですが、これは違います。日珈販の本部は他のフランチャイズと違って、共同組合の本部のような組織になっていますから、儲けるどころか創立以来2年間大きな赤字です。
日珈販の本部というのは駐留軍基地に何十年も勤めた結果、安い退職金で辞めさせられた人や、公害でいきの良い魚が売れなくなった魚屋さんや、大手のコーヒー焙煎卸業者に馬鹿にされて困っていた喫茶店などが、珈琲店という世界でなんとか生きぬいていけるように、協同組織を作って大商社などの大資本と対抗していこうという目的で作られたものです。
≫要求される変化≪
ですから、本部自体は店数が増えたからといって儲かる訳ではないのです。
ただ、皆さんがご指摘の通り、昔のぽえむのムードは少しずつ失われていくかも知れませんが、そのかわり多くのぽえむが出来、また多くのお客様も得ました。
そして、お客様の方も随分と違って来ました。それはとりも直さず、ぽえむというものの機能を、また使命や役割をといったものの変化を要求していることを表わしています。
私は、今日、現在のぽえむの上にたって、ぽえむの役割というものをもう一度考えなおすべき時が来ているような気がするのです。