ブラジルの霜害によるコーヒー豆の値上がりについて


1975年9月1日コーヒー党の機関誌「珈琲共和国」より

珈琲共和国1975年9月
珈琲共和国1975年9月

新聞や週刊誌などで既にご承知のことと思いますが7月下旬、ブラジルに降りた霜は、オイルショックさながらの影響をコーヒー業界に与えているようです。
現地の新聞などが伝えるところによりますと、ブラジルコーヒーの生産地であるパラナ州では、雪を伴った零下10度の寒波のためにコーヒーの木は葉や枝ばかりでなく幹や根にまで被害を与えたということです。
そのため枯死するコーヒーの木も多く、植えかえなければならない状勢にあるということですが、もしこれが本当だとすると、世界の1/3の生産量を誇るブラジルのコーヒーは今後数年間大減産となり、世界的にコーヒーの絶対量が不足してくることになります。
それに加えて、このところ相場が下降気味で、何とか値上げを計りたいと考えていたコーヒー生産国側は、チャンス到来とばかり、輸出の一時停止を行い、輸出価格の引き上げを策しておりますので、以来、世界のコーヒー相場は上昇する一方となっています。
また、具合の悪いことにはわが国のコーヒー業界にはこの2、3年来のブラジルコーヒーの増産、豊作の有様から、先安とみる楽観論が支配的で、各社共に仕入を手控える傾向にありましたので、国内在庫は少なく、10月頃には国内ストックの原料豆が品切れとなり、高騰した国際相場がスライドされた新規輸入分に頼らなければならないようです。
そうなりますと、当然、コーヒーの卸価格も上がることになります。
東日本コーヒー商組合では8月19日に総会を開き、この問題について情報を交換したようですが、遅くとも10月までにはコーヒー豆の卸価格をキロ当り200~300円程度引き上げなければならないだろうという意見が大勢を占めたということです。
さて、コーヒー豆の卸価格が上がるとなると、当然喫茶店のコーヒー代も値上がりするのではないかということになりますが、私は、コーヒー豆の値上がり自体はコーヒー店で飲むコーヒー代にかかわりないという風に考えています。
なぜならば、たとえコーヒー豆の卸価格が上がったとしても、コーヒー代の原価の中で占める割合は大したものではないからです。
私共コーヒー店の業者がお客様に提供しているコーヒーの原価は、家賃や改造費、権利金の償却費、水道光熱費がその大部分を占め、原材料の占める割合はせいぜいコーヒー代の18%位だからなのです。その上、コーヒー豆の原料代はその半分位ですから、コーヒー豆の卸価格が上がったからといって影響を受ける額は大したものではありません。
この程度の値上がりは、日常的に購入している砂糖やクリームやその他の商品や資材の値上がりで経験していることですから、その時点での経営効率の中で吸収してしまえばできないことはない金額なのです。
むしろ、東京都の場合などは水道料金が3倍になるというようなことの方がこたえるわけで、値上げの本当の理由はそちらにあるのではないかと考えています。
ですから、もしコーヒー店や喫茶店でコーヒー豆の値上がりを理由にコーヒー代を値上げする店があったとしたら、これは全くの便乗値上げとしか考えられないと思います。
ただ、コーヒー専門店にしろ喫茶店にしろ、喫茶営業という部門に関しては、飲食物の販売というよりもサービスの提供という要素が強い面がありますので、人件費とか公共料金が上がるとその値上がり分のうち営業の弾性によって吸収できない部分については多少値上げをしなければならなくなってきていることは事実です。
私共、ぽえむチェーンにおいても、サービスの提供、特に楽しさを演出するための経費がかなり圧迫を受けており、スケールの拡大によるコストダウン等でカバーできない面が出てきていますので、本年中にコーヒー代を多少値上げするかもしれません。しかし、値上げするといっても20円か30円が限界であって、50円も100円も上げるということは便乗値上げもいいところだといわざるを得ません。
このブラジル霜害で、私が一番ショックを受けたのは、世界的なコーヒー豆の相場の下落を見込んで、サービス提供によるコストプッシュの少ないコーヒー豆の店頭販売の引下げを計画していたことがだめになったことなのです。
皆さん方がぽえむのコーヒー豆をたくさん買って下さるので、ぽえむ本部が扱うコーヒー豆の量は年内に月商10トンを超えるだろうと思いますが、そのスケールを生かしてコストダウンしようとしたものがだめになりました。この物の値段がみな上がるときに値下げをするというカッコヨサ――これも、一夜の霜でユメとなりました。
しかし、値下げはできなくても値上げをしないという道が開けていますから、その点で十分な努力をしたいと思っています。