珈琲野郎のコーヒー党宣言 コーヒー党には知る権利がある


1973年3月1日コーヒー党の機関誌「珈琲共和国」より
珈琲共和国1973年3月

 私がコーヒー党宣言を書きはじめたのが、昨年の四月号でしたからこの号で一年間書き続けたことになります。
 この間に世界的にはベトナムの和平や日本には二度にわたる円に切上げなど、またコーヒー業界ではコーヒーの輸入価格の高騰や共同焙煎工場などの協業化、コーヒー売価の値上げなど話題の多い一年でした。
 そういった動きの中で、私はコーヒー党の立場に立って、コーヒー党として当然知るべき権利を行使しようとすればするほど、コーヒー業界の秘密主義の壁の厚さに驚かされてしまいます。
 私が何か書こうとすると永年取引を重ねてきた相手であっても、まるで貝になったように口を閉じてしまいます。また少しでも彼等コーヒー卸業者達に不利なことでも書こうものなら、その情報を誰が漏らしたかなどという次元の低い詮索ばかりして、自分の誤りを正そうという反省の気配は全くありません。
 まるで沖縄返還交渉における外務省の機密漏洩事件で、政府が国民に嘘をついていたかどうかという点はいつのまにかウヤムヤにしてしまって、西山記者と蓮見事務官に情交があったとかないとかいう話だけがクローズアップされているのと同じことです。
 まして、コーヒー業界における秘密などというものは全く秘密にしておく根拠なんてありません。
 公害企業が害毒を平気でたれ流しておいて、その真偽を確かめようとすると、企業の秘密を楯に調査に応じないのと同様、全く理不尽なことなのです。
 企業の秘密というものは例えばコーヒーの配合の割合とか、焙煎温度の調整の仕方など企業一つ一つが持っている秘密であって、ゴットホットの焙煎機の一般的性能などというのは(カタログ的知識)秘密でもなんでもありません。まして自分の会社の実力をPRしようとするときは、こんなに高性能な設備があるとマスコミなどに発表しておきながら、その欠点を指摘されると企業の秘密を暴露したと怒るのは筋違いです。
 日本の場合はまだ消費者運動が徹底していませんから、コーヒー豆など素人にはよく判らないような商品は適当にゴマカシテ売ることができるでしょうが、アメリカあたりでは間違った宣伝をしたり、宣伝の一部に消費者をあざむくような部分があった場合は、その宣伝に要した費用の三分の一の費用をかけて訂正広告を行うことが義務づけられていてその判定の基準も非常に厳しいそうです。
 広告においてもその位ですから、もし対面販売や品質表示において消費者を偽るような説明を行ったとしたら、その企業は徹底的な糾断を覚悟しなければならないそうです。
 日本のコーヒー業界も、もうこの辺でキワモノ商売から足を洗って、正々堂々と胸を張るような商売をしないと外資系や新興勢力にまたたく間に制圧されてしまいます。自動車のホンダが明治屋と組んでACTコーヒーというレギュラー缶を売り出しましたが、このように従来の業者よりも、資力・企画力に秀れた業者が次々と進出してくることになると、仲間うちでヒソヒソやっているところは、そのうちダメになってしまうでしょう。
 また業務用コーヒーのお得意先だって、今まではいわば水商売のマネージャーマスターの相手だったわけですが、これからは一流企業も飲食業に進出していますから、中途半端な説明なんか通らなくなります。
 私は、私が喫茶店の支配人だった頃、取引先の大手コーヒー会社の課長で現在印刷屋さんとして私のところへ出入りしている田村三郎君とよく話すのですが、「かつて取引のあったコーヒー屋さん達が、さんざんダマシテくれたお陰で私もコーヒー業界に詳しくなった。だから、かつての取引先は私の先生だと感謝しなければいけないのだ」と。
 その度に彼は苦笑いしています。
 だまされるのは、やはりそれだけ本人が不勉強だからです。少なくともプロである以上ダマサレルこと自体恥ずかしいことです。
 もっとも現在の取引先だって結構人をだましてきましたから、もうだまされないつもりでも、もしかしたらやられているかもしれませんが私も大いに勉強して絶対ダマサレないようにしたいと思っています。
 今年の四月で私が喫茶業に足を踏み入れて満十年になります。またコーヒー党宣言も二年目に入りますので来月号以後も一層頑張ってコーヒー党の知る権利を行使すべく書き続けていきたいと思います。