コーヒー党宣言 これからどう動く? 我が国のコーヒー業界


1974年7月1日コーヒー党の機関紙「珈琲共和国」より
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-小室博昭氏・某生豆問屋社長との会見から-

 
過日、私はかねてからお会いしたいと思っていた小室博昭さんにお会いする機会を得た
 小室さんは、世界で一番の舌をもつ男と言われるコーヒーの鑑定人である。
 我が国では、コーヒーの鑑定人といえば、コーヒーを飲んでみて、美味しいのまずいのといっている人間ぐらいにしか考えてみないだろうが、小室さんが現在おられるブラジルをはじめ、世界の貿易市場でコーヒー鑑定人といえば、たいへんな大物なのである。

鑑定人の・ちから
 なぜならば、コーヒー消費国のコーヒー輸入商社は鑑定人の舌を信じてコーヒーを取引するのが習慣となっており、鑑定人が別の会社へ移ったりすると客もみんなその鑑定人の移った会社へ移ってしまうぐらいの強い影響力を持っているからなのである。
 だから、ブラジルのコーヒー会社などでは、鑑定人が社長の2倍以上もの給料をもらっていることなど当然のことなのである。
 小室さんは、明治大学を卒業後単身ブラジルへ渡られ、日本人としては初めてブラジルコーヒー院の鑑定士の学校を卒業された方で、現マルベニコロラド社の支配人も兼ねる超大物の鑑定人なのである。
 数年前から、日本人の手で作ったコーヒーを日本の人達に飲んでもらいたいということで、毎年一回来日され、コーヒーの正しい知識の普及を通じで、ブラジルで生産されたコーヒーのうち品質の良いものをどしどし輸入してもらいたいと努力されている。
 私も小室さんのお話はその第一回目の来日のときから伺っていたのだが、なぜか引合わせてもらうことが出来ないままだった。
 今年は、数年目にしてあこがれの小室さんにある人の仲介によりやっとお会いすることが出来たのだが、なぜ私が小室さんとなかなかお会い出来なかったのかの意味を十分に理解することができたのである。
 私がどのように理解したかについて述べることは、仲介人に対して非常な迷惑を及ぼすことなので詳しくは語れないが、賢明なる「珈琲共和国」の読者ならばその会談問答がどのようなものであったかは推察していただけると思う。
 会談問答のうち差しさわりのないことを述べれば、小室さんたちがブラジルで真剣に美味しいコーヒーを作るために努力されていることなど我が国には知られていない。
 たとえば、現在ブラジルでは「新世界」と呼ばれるスマトラ種とブルボン種の交配種が多く栽培されている。これはこの新種が在来のブルボン種より霜害や病虫害に強く収穫量も多いからであるが、味の方ではかなり落ちるということである。

コーヒーを・知る
 そこで小室さんたちはコロラド農園という新しいコーヒー農園を開き、そこにブルボン種を植えて、美味しいコーヒー作りに乗出したということである。
 このようにして、何とか美味しいコーヒーを作ろうとしているのだが、どうも日本のコーヒー業者は安い品物や、見てくれが良くて味はそれほどでもないものばかり追って、本当に良い品質のものは買ってくれないとボヤイておられた。
 日本人として日本人が心をこめて作った美味しいコーヒーを、日本の人達にぜひ飲んでもらいたいのだが、この調子では、せっかくのコーヒーもみんな欧米行きとなってしまいそうだということである。
 正直な話、このオシャベリな私が会談中ほとんど発言する気を起こさないほどいろいろな真実を話していただいた。
 そして、いかにわれわれがコーヒーというものを知らないかということを、イヤというほど知らされた。
 と同時に、私は日本人の中にもこれほどコーヒーに情熱を注ぎ、日本のコーヒー業界正常化に熱意を燃やしている人がいることを知って、大いに闘志をかきたてられたのである。
 小室さんはまだ30歳代の青年である。
 私もやっと40歳、これからコーヒー業界は面白そうである。

☆ ☆

同じ日、ある生豆問屋の社長にお会いした。これまた、従来のコーヒー業界のあり方からみれば異例のことである。
 会談の目的は、取引先の焙煎業者でのコーヒー豆のひき売りを伸ばして、コーヒーの取引をふやしたいので「ぽえむ」で実績のある私に知恵を借りたいというのである。

サイホンを・砕く
 私は、簡単なことです。私にステッキを一本下さい。そうすればコーヒー専門店のコーヒーサイホンを全部砕きます。私はサイホン自体は悪いとは思いませんが、サイホンがコーヒーを淹れることを面倒なことだ、という印象を与えていることがいけないと思います。メリタのような簡単な器具を店でも使えば、コーヒー豆のひき売りはたちまち増大します。コーヒー業界とは妙な業界で、業者がコーヒー豆を売れないように売れないようにして自分の首をしめている。なぜあんなにコーヒー専門店にサイホンを奨めるのでしょう。不思議な業界で、常識では理解できません。と申上げたところ、相手の社長は大笑いされ、それでは金のステッキでも差上げましょうということになった。
 私はその日2人の方に会い、異質の経験をしたが、そこに我が国のコーヒー業界の縮図を見た思いがしたのである。
 さて、これからのコーヒー業界はどう動くのだろうか?