インスタントコーヒー再び増進


1974年10月1日コーヒー党の機関誌「珈琲共和国」より
kyowakoku1974-10-150-240

この現象を惹起したのは誰か?

 食品商業9月号(商業界刊)や国際食品商業9月号(国際商業研究所刊)やサンケイ新聞経済版(9月11日付)などの伝えるところによると、最近再びインスタントコーヒーの伸びが目立ってきたということです。
 その理由について、各誌ともに昨年まで急速に伸びていたレギュラーコーヒーの増進が止り、代ってインスタントコーヒーが再び勢いを盛り返したというふうに述べています。

▲面倒くさいというけれど▲
 レギュラーコーヒーの伸びが止った理由としては、不況・節約ムードのため伸び悩んでいる(サンケイ新聞)というような見方もあるようですが、私は一概にそのように受け取れません。
 なぜならば、私の主宰する珈琲専門店のフランチャイズチェーン「ぽえむ」に限っていえば、コーヒー豆の挽き売りはチェーン全体で前年対比の300パーセントの成績を残しているからです。
 また、個々の店における前年対比の売上の伸び率は新規開店のもので100~200パーセントの伸び、開店後数年たった店でも30パーセントは伸びているからです。「ぽえむ」チェーンでは、コーヒー豆の小売価格を昨年比改訂していませんから、売上げの伸びは需要増と考えてもいいわけです。
 さて、それならなぜインスタントコーヒーが再び勢いを盛り返し、レギュラーコーヒーがペースを落したのでしょうか。
 その最大の原因は、やはり面倒くさいということにあるのではないのでしょうか。
 メリタやカリタという商品で知られるペーパーフィルターという便利なものがありながら、なぜかわが国のコーヒー屋さんは、サイホンのように高価で壊れやすく、必ずしも美味しいコーヒーが抽出できるとは考えられないものを愛用しています。
 その結果、どうしても手間がかかりすぎる割に、美味しいコーヒーが得られないということになりがちなのです。その上、もっとも悪いことには、世界的な値上がりを見越して買い込んだ安豆のストックが、商社や生豆問屋の手元にゴッソリあって、それを使い切ってしまわない限り、美味しいコーヒー豆が輸入されないという有様なのです。
 聞くとことによると、ブラジルなどではコーヒー豆の入出がふるわず、ブラジルコーヒー院では大幅なリベート政策をとってまでコーヒー豆を売り込んでいるようですが、なかなか上手くことが運ばぬようです。

▲コーヒー業界の崩壊?▲
 その一方では、わが国のように決して安くない粗悪品をゴッソリ買い占めたおかげで、今になって消費にやりくりしているようなところもあるのですから全く妙な話です。
 このような状態が続くと手間のかかる割にたいして美味しいコーヒーが楽しめないレギュラーコーヒーよりも、手軽にコーヒーを飲むことのできるインスタントコーヒーの方がいい、という人たちがふえていくのは当然のことでしょう。
 コーヒー業者、特に焙煎業者の方たちは、もういい加減に業界の将来ということを真剣に考えて、行きあたりバッタリにコーヒー専門店の開業をすすめ、サイホンコーヒーの店などという家庭用のコーヒーの需要とは関係のないことばかりやっていないで、手軽に美味しいコーヒーが抽出できる器具の開発などに本気で取り組んだり、良質の美味しいコーヒー豆を提供することを現実に行っていかないと、今に業界そのものが崩壊することになりかねないと思います。
 恐らく、焙煎業者の皆さん方は、私のような駆け出しの若僧のいうことなんか、何をいうかとお考えでしょうが、あのコーヒー大国アメリカでさえも、パーコレーターやインスタントコーヒーの普及に伴って、コーヒーが美味しくない飲料の仲間入りをし、年ごとに需要が減少しているとのこと、わが国とても例外ではないと思います。
 でも、考え方によれば、そのような考えの方がたくさんいらっしゃればいらっしゃるほど、強力な競争相手が減って、私ども駆け出しには仕事がやりやすいようです。

▲同じファクターで考える▲
 とにかく、今までのわが国のコーヒー業界は、レギュラーコーヒーとインスタントコーヒーとは、まったく別物という考えが業界を支配していたようですが、ここへ来て我々コーヒー業界に携わる者は、考え方も一新して、インスタントコーヒーもレギュラーコーヒーも同じファクターで考えるようにしなければならないということがいえましょう。
 もし、いまだにレギュラーコーヒー業界は別だというような方がいれば、その人の将来は将にお先まっくらでしょう。

インスタントコーヒーとレギュラーコーヒーの違い


1974年10月1日コーヒー党の機関誌「珈琲共和国」より
kyowakoku1974-10-150-240
 一ヶ月程前のことです。日珈販の配送センターに自社の自動販売機に日珈販で販売している高級コーヒー豆「ぽえむ」を使いたいので、ぜひ卸してほしいという引き合いがありました。
 日珈販はコーヒー豆の卸売業者ではありませんので、加盟店以外には供給できないことを申し上げてお断りしたのですが、あとから考えてみるとオカシナ話なのです。
 と申しますのは、話の様子では使いたいという対象はインスタントコーヒー用の自動販売機なのです。「ぽえむ」はレギュラーコーヒー。一体どうして使おうというのでしょう。
 私の考えでは、話をしに来られた方は、インスタントコーヒーというものはレギュラーコーヒーをゴク細かく挽いたものであると思っていられるのではないでしょうか。それで、美味しいという評判の「ぽえむ」というコーヒー豆を買って細かく挽いて使えば、美味しいコーヒーが自動販売機で抽出できるとお考えになったに違いありません。
 コーヒーについての知識を十分にお持ちの方には、ナンセンスかも知れませんが、案外、インスタントコーヒーとはどんなものか知らない人が多いようです。
 インスタントコーヒーは正確には「ソリブル(可溶性)コーヒー」といって、コーヒーの抽出液を乾燥、または凍結分離させて抽出液中の水分を除出したものをいいます。
 水や湯に簡単にとけ、コーヒーの溶液を作ることから、インスタントコーヒーの愛称で呼ばれ、コーヒーの抽出液を凍結させ水分が氷となって、分離するのを利用して作ったものをフリーズドライと呼びますが、最近ではフリーズドライが人気を呼んでいるようです。
 インスタントコーヒーの良さは、なんといっても手軽さですが、その欠点は致命的ともいえる味の悪さです。それは、インスタントコーヒーがコーヒー液を抽出した上で脱水するという工程を得るため、どうしてもその過程で酸化しやすいということなのです。
 ご存じの通り、コーヒーの抽出液は実に不安な物質で、なかでもタンニンはすぐに酸化してピロガロール酸という嫌な味の物質に変わるだけでなく、酸化したタンニンは水に溶けにくくなりますので、折角のインスタントコーヒーの味が水っぽくなったりします。
 しかしわが国では、インスタントコーヒーの伸びのおかげで、レギュラーコーヒーの愛好家もふえているのですから、あまり馬鹿にしたものではありません。
 偉そうな能書きをいっているコーヒー店にしても、何杯もコーヒーをとりだめして、客の注文に合わせて温めて出してくるような店のコーヒーは、インスタントコーヒーよりはるかにまずいものが多いようです。
 それもそのはずでしょう。手間ひまかけてレギュラーコーヒーを淹れるということは、少しでも新鮮なコーヒーを飲もうということなのですから、インスタントコーヒーが、いわばたてざましのコーヒーであるとすれば、コーヒー屋のコーヒーがまずくて飲めたものではないということはいうまでもありません。むしろ、インスタントコーヒーの方が美味しいくらいです。