1974年6月1日コーヒー党の機関紙「珈琲共和国」より
連日、私は幕末の奇妙な殿様山内豊信(容堂公)の甥の孫ということで、NHKの「この人と語ろう」という番組の司馬遼太郎さんのお話相手としてテレビ出演しました。
ご覧になった方もあろうかと存じますが、このときの出演者が表向きは10人の中堅サラリーマンということで、私のようなサラリーマン脱落者は出演者の中では刺身のツマ、つまり容堂公とかかわりあいのある人物というだけでひっぱり出されたのだ、ということがすぐお判りかと存じます。
しかし、そのおかげで私はこれを契機に食わずぎらいであった司馬文学を読むようになりました。
そこで大変面白いことに気づいたのは、司馬さんが好んで書かれる幕末にコーヒー業界というものが実によく似ているということです。
幕末政治というのは、いわば政治というものをすべて武士階級で独占するために都合のよい政治でした。
今のコーヒー業界というものが実はこの幕府政治のように、コーヒー(政治)というものをコーヒー業界の都合のよいように操れるようにできているのです。
■山内晋作灰土に立つ■
いわば封建時代における藩が焙煎業者です。その家来であるのが喫茶店のオヤジ連中です。さしあたりバーテンさんたちは足軽といった役柄でしょう。ここまでが武士階級であり、政治(コーヒー)にかかわりあうことのできる連中で、それ以下の町人や農民たちは黙って時の政治に従って(コーヒーを飲む)さえいればよく、余計なことは考えるなといったわけだったのです。
つまり武士階級(コーヒー業界)に都合のよいやり方さえやっていればことが足りたのです。
しかし、やがて武士階級は次第に町人階級に経済の実権を握られ、武士の政治のやり方ではやれなくなってきました。
同様、今のコーヒー業界も原料豆の高騰や経済の増大や町人階級である家庭でのコーヒー消費の伸びなどによって業界の都合だけではコーヒー業界が成立っていかなくなりました。
そこへもって、味の素ゼネラルフーズやメリタ・ジャパンといったオロシヤの船や黒船がやって来たので、当然、維新の気運が増大してきたわけです。
コーヒー業界の坂本竜馬兼高杉晋作のつもりでいる私もにわかに忙しくなって参りまして、あるときは竜馬、またあるときは晋作という大活躍を続けているわけですが、誠に不思議なことに、あたかも幕末のごとく討幕の気運は大いに高まっていくのです。
私の説得で、日本で指折りの流通業がコーヒー業界に進出しそうな気配を見せてきました。これは晋作流にいえば、日本が外国と戦い敗れることによって、その灰土の中から新しい日本を作ろうと考えたように、現在日本のコーヒー業界の第一人者である上島コーヒー本社の数十倍、数百倍の能力、資本力を持った企業をコーヒー業界へ参入させることにより、今のコーヒー業界をたたき潰して、その灰土の中から新しく正しいコーヒー業界を作ろうという考えと同じものです。
■ぽえむ人民軍は珈琲維新へ■
一方、山内竜馬の方は、薩長連合ともいうべき業界の大同団結に走りまわっていますが、これもうまくいきそうなのです。現在、互いに販売網を競い合っている者同士が、コーヒー業界革命のために、外敵、即ち外国系資本や新規参入企業に対抗しようというもので、今まで対立関係にあったものが手を握り合うということができそうなのです。
明治維新が、吉田松陰という青年の、当時としてはとんでもない発想に端を発し、坂本竜馬・高杉晋作の手を経て、まさかと思われるような革命が成立したように、今やコーヒー業界は珈琲維新・珈琲元年に向かって徐々に走り始めて吉田松陰という青年の、当時としてはとんでもない発想に端を発し、坂本竜馬・高杉晋作の手を経て、まさかと思われるような革命が成立したように、今やコーヒー業界は珈琲維新・珈琲元年に向かって徐々に走り始めています。
明治維新が成立したのは時代の流れでした。時代の要求でした。
これと同様なことがコーヒー業界でもいえます。
コーヒー業界の人達が私のいうことを何のたわごとと馬鹿にしていると、幕末に長州藩の正規軍が、数十分の一の人数しかいない、しかも百姓で組織された奇兵隊に敗北、そして、それが契機となって討幕という大きな事態へ発展していったように、私の率いるぽえむチェーンといった素人で組織された軍隊が、従来の焙煎業者という正規軍に局地戦で勝ち、それが革命軍の士気を高め、参加者を増やし、また連合の気運を生んで業界革命へと動いていくことも不可能なことではありません。
さて、このノストラダムスの大予言に匹敵するがごとき予言が当るかどうかは来年あたりのお楽しみとして、最後に私がいいたいことは、明治維新が結局藩閥政治を生み、そして、それが今日の日本のごときものを作りあげた失敗は、政治の当事者である人民が維新に参加しなかったからだと思います。
ですから、このコーヒー維新については、ぜひ当事者であるコーヒー党の皆さんの積極的な参加をぜひとも得たいのです。