珈琲野郎のコーヒー党宣言 コーヒーは粋に飲もう


1973年2月1日コーヒー党の機関誌「珈琲共和国」より
コーヒー値上げの波紋
珈琲共和国1973年2月
 毎度のように申し上げておりました国際コーヒー協定の新市場問題が、いよいよ大詰を迎えて来たようで、そのまえぶれとしてコーヒー豆の卸売価格の値上げが行われようとしています。
 まさに我々コーヒー党にとっては日珈販ニュースの見出しの如くお寒い春としかいいようがありません。
 新市場問題の方は国際コーヒー協定を審議する理事会そのものが空中分解しそうで、新市場の適用除外そのものはまぬかれたとしても、国際コーヒー協定そのものが効力を失いそうなので、新市場もヘチマもなくなってしまいそうです。
 そうなると現実的に国際相場へ移行してしまうので日珈販ニュースに書いてあるように輸入価格が大幅に上がり、結果的には我々の口に入るコーヒーも上がるということになります。
 これがほかの物でしたら高いものは買わないとボイコットするわけですが、コーヒーがなければ夜も日も明けぬ我々コーヒー党にとっては、口惜しく涙にくれながらもインフレムードでとくに軽くなりがちの財布をはたいてコーヒー代を払う結果となってしまうわけです。
個性をなくす共同焙煎
 さて、これからのコーヒー業界ですが値上げのほかに品質の方でもあまり良いニュースがなさそうです。
 一昨年から昨年にかけて東京アライドコーヒーロースターズやユニカフェというコーヒーの共同焙煎工場が誕生しました。この共同焙煎工場の目的は協業化による企業の合理化ということですから、その主旨そのものには反対できません。しかし、聞くところによると大半の焙煎業者がそれに加入しており、小さな業者は自家焙煎を中止すると聞いております。そうなると、今まで小さな焙煎業者が小さな焙煎機で各自煎っていたものが、大きな焙煎機で一ぺんに煎るものですからどこの豆も同じ味になり個性がなくなります。各自配合は変えるでしょうが、煎り方が同じですから似たような味にしかならないようです。
 つまり各焙煎屋さんの個性が失われてしまうわけです。これは、我々コーヒー党にとっては悲しいことです。
 それにもう一つ気に喰わないことは、そこで使われている焙煎機の種類です。大阪にあるユニオンロースターズを除いてはみんなゴットホット社の大型焙煎機を使っています。これは灯油を燃料として6分間で250キロもの豆を煎り上げる性能を持った高性能の焙煎機です。
 私にはその高性能が気に入りません。高性能であるということは、一度に多量の熱風を焙煎機に送り込み早く乾燥させるから早く煎り上がるのです。
 焙煎業者の側からいえば早く煎り上がるということは好ましいことかも知れませんが、我々コーヒー党から見ると熱風を大量に送り込むということはそれだけ成分(アロマ)を飛ばしてしまうわけですから、みんなカラカラのコーヒーになってしまいます。
 コーヒーなんてものは少々煙臭くたってアロマの充分残っているものの方が美味しいにきまっています。コーヒーらしいムードもあります。それがどうやらこの調子でいくと日本中がカラカラコーヒーを飲まされる結果となります。
 アート、木村、UCC等はみんなこの高速焙煎機を採用していますから、コーヒーがカラカラしています。
珈琲野郎の粋な飲み方
 そんな中で手造りの味を作り続けていこうとすると、なみの苦労ではありません。まごころブレンドの加工先キャラバンコーヒーの社長の永田さんに言わせると、ガス代の値上がりは一番こたえるそうです。
 しかし、キャラバンコーヒーとしては、品質が売り物だそうですから、どんなことがあっても手を抜くようなことはしないそうで、これだけはチョッピリうれしいニュースですね。
 珈琲野郎としては、美味しいコーヒーをだれでも気軽にガブガブと飲めるような社会であってほしいと思うわけですが、食品の不足は世界的な問題で、チリーなどではコーヒーも配給制になったということですから悲観的です。
 だけど考えてみれば飲物なんていうものは、余計なことを考えないで気軽に飲めばいいわけです。
 同じようにコーヒー代を使うのなら、美味しい思いをしたらいいにきまっています。日本人は少し能書きが多すぎますね。
 理屈をつけずに飲む、それが粋というものでしょうなどと言っている本人が一番不粋なようですね。