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みんなの珈琲学2


1976年3月1日コーヒー党の機関誌「珈琲共和国」より

珈琲共和国1976年3月
珈琲共和国1976年3月

《問》ぽえむの主張にムジュンはないか?《新メニュー》焙煎度の違う豆のミックス

前略
いつもぽえむのコーヒーを美味しく飲ませて頂いています。残念なことに、今月一日よりメニュー改定と同時に飲食の値段も上がってしまい、ついに二五〇円のアラカルトは姿を消してしまいました。商品券の額(千円)はずっと変わらないナァなどと、ふと思っています。
ところで本日ペンをとったのは、新登場のスペシァルミックスの事で少し伺いたいのです。
本日お送り頂いた”珈琲共和国”や新メニューには「焙煎度の違うコーヒー豆を数種類配合云々」と書かれています。でも、従来のぽえむでは「ブレンドコーヒーは焙煎度の同じものを使うべきだ。さもないと味にバラツキが出てしまう」という姿勢ではなかったでしょうか?だからこそ、売店でもストレートの「豆を配合して売ることを禁止」していた(共和国No.21 P7)のだと思います。この説明をして頂きたいと思います。「抽出法に多少の配慮がいる」ということだけではちょっとわかりかねるのです。現に、今まで何度かぽえむで飲んでみましたが、何となく毎度味が違うような気がします。
決してこれはスペシァルミックスを止めろと言っているのではなく、なぜこういうものが出てきたのかをお尋ねしているのです。もちろんぽえむのことですから”鮮度の差---を無視してブレンド公式だけに頼って(共和国No.37 P7)”いるのではないと思いますが・・・。

杉並区阿佐ヶ谷南2-5-32
かめだたつき

《答え》スペシァルブレンドはコーヒー党の醍醐味追求!

お便り本当にありがとうございました。
ご質問の主旨たいへんよくわかります。
こんなことを申し上げると失礼かもしれませんが、加盟店の従業員や日珈販のスタッフに対する演習問題として、きわめて適切な発問があったと喜んでいる次第です。

■視点の違う二つの問題
さて、この演習問題の模範解答ですが、第一の問題点は、「焙煎度の同じものを使うべきで、さもないと味にムラ、バラツキが出る」ということと、「ストレートコーヒーを配合して売ることを禁止している」ということを、混同して考えていらっしゃる点にあると思うのです。
この二つは、全く視点が違うのです。
前者は、焙煎度の同じコーヒー豆を使うことによって「誰が淹れても同じ味のコーヒーができる」ということを目的に、ジャーマンロースト、フレンチロースト、アメリカンローストなどのコーヒーが造られているという意味で、ストレートコーヒーを配合して売るな、ということとは無関係です。
後者の、ストレートコーヒーを配合して売るな、ということは、「ストレートコーヒーは配合して用いられるために焙煎されたものではなく、ストレートの個性が強調されるように焙煎されたもの」であるため、単に配合比率で計算しても計算通りの味が出ないから、ぽえむとして責任が持てないということで、配合して売ることを禁止しているのであって、両者は、別々のものについて述べているのです。
このことは、ご指摘いただいた「珈琲共和国」(No.21 P37)をもう一度よく読み返していただくと、おわかりいただけるだろうと思います。

■スペシァルミックスの味のフラツキ
さて、問題のスペシァルミックスですが、ご指摘どおり、味のフラツキは多少あると思います。
それは、焙煎度の違うコーヒー豆を配合すると、焙煎度の強いものと弱いものでコーヒー豆の成分の抽出具合に差がありますから、抽出に要した時間の差が、そのまま味のバラツキとなって出てくるのです。
ただ、店の従業員が、本部のマニュアルに従って忠実に抽出したならば、多少のフラツキがあっても、美味しいコーヒーのワク内に納まるはずのものなのです。

■スペシァルブレンド誕生の舞台裏
ぽえむを、私と家内の二人で営業していたころ、そして、ぽえむのコーヒーが美味しいと評判をとりはじめたころは、もっと複雑な配合のコーヒーを提供しておりました。
すると、私と家内との間で淹れるコーヒーの味にどうしても差異ができ、「マスターの淹れてくれるコーヒーじゃないと飲まない」というお客様がいたりして困ったものです。
私も不死身ではありませんから、年がら年中店でコーヒーを淹れるわけにもいかず、そこで工夫して、誰が淹れても責任の持てる味の出るコーヒーとして開発したのが、ジャーマンローストの代表されるぽえむのコーヒーだったんのです。
しかし、味覚というものはバラエティのあるものですから、もっと幅の広い美味しさも探求しようとすると、単一な焙煎豆を用いるのはどうしても限度があります。
そこで、もう一度コーヒーの美味しさを追求しようという目的で開発したのがスペシァルブレンドなのです。

■コーヒー党の真の醍醐味
それともう一つ、あまり誰でも簡単に淹れられるコーヒーばかりでは、コーヒーを大切にする心が失われます。
一つくらい意地の悪いコーヒーがあって、従業員の技能でコーヒーの味に差ができて、お客様から文句の一つぐらい言われるものがあってもかえって面白いのではないかと思うのです。
私も、ぽえむの各店にお邪魔したときは、必ずスペシァルブレンドでその店の技量を計りたいと思っていますが、貴方もひとつ、そのようなことをおやりになってみてはいかがでしょうか。
その結果でもお知らせ下されば、楽しいな、と思っています。

みんなの珈琲学3


1976年4月1日コーヒー党の機関誌「珈琲共和国」より

珈琲共和国1976年4月
珈琲共和国1976年4月

薄いコーヒー?水っぽいコーヒー?
―コーヒーの成分が湯に溶けるメカニズムについて―
先日、ぽえむのある店でお客様との間でちょっとしたトラブルがありました。
そのトラブルというのはお客様が「ジャーマンローストの薄いものを下さい」とおっしゃったので、店の者が「ぽえむの調理マニュアルに定められた抽出手順に従ってジャーマンローストを淹れ、中途で抽出を止めて、湯を加えて提供した」ところ、どうやら「湯を加えて提供した」ことがお気に召さなかったらしくて、他の店では「コーヒーの粉を10グラム使って荒挽きにして淹れてくれるのに、おかしいじゃないか」と言われたそうです。
幸いその店は、ぽえむの中でも秀れた店に属するものでしたので、店長から「ぽえむのフランチャイズチェーンとしてのシステム」や、「湯を入れることが決して不味くするものではないこと」をご説明申し上げ、ある程度納得されて帰られたようです。
この報告を受けて、私は、このような経験をされて未だに納得のいかないお客様も多いのではないかと思いますので、問題点を少しご説明申し上げたいと思います。

コーヒーはどのぽえむでも同じ味
まず最初にご理解いただきたいことは、ぽえむがチェーン店であるためには、「どこの店へ行っても同じ味のコーヒーが楽しめる」ということが一番大事なことで、そのために本部は、「コーヒー豆の使用量・挽き方・抽出手順・使用する食器などを定めたマニュアル」によって、味の均一化を図っています。
ですから、店サイドで勝手に抽出法を変えたりすることはマニュアル違反であって、そのことがあまりにも度重なると、加盟契約の解除もあり得るということになります。
一見、不親切なようですが「ぽえむのジャーマンローストは、このような味だ」と思って来店して下さったお客様に「テンデにマチマチな味のジャーマンローストを提供する」ということは「大多数のお客様の期待を裏切り、同一の看板、メニューを掲げて商売しながら別のものを売るということは、詐欺に等しい行為」となりますので、このようなマニュアルを用いて統制しているわけなのです。

「量を減らして荒挽き」は無謀
次に「コーヒー豆を10グラムに減らして荒挽きをして淹れる」という抽出法ですが、このようにして淹れられたコーヒーはすでに「ジャマンロースト」ではない、別のコーヒーになっているのです。
ご承知のとおり、コーヒーの抽出にあたって一番に問題になるのは「湯の温度と抽出時間」です。そしてその』抽出時間を大きく左右するのは「粉のメッシュ」すなわち「挽き方」ですから、「挽き方を変える」とい抽出成分のバランスが狂ってしまって「ジャーマンローストの味の成分と違った成分比」となってしまうわけです。
まして、挽きを荒くして同量の湯を注ぐということになると、挽きが荒くて湯が粉の表面にしかいきわたりませんので、湯に接している粉の表面の部分の成分をみんな抽出することになり、本来はあまりカンゲイしていないものまで抽出することになってしまうのです。
その上、粉の量まで減らしてしまうというといっそうこの傾向は強くなります。
「粉の量を増やして荒挽きする」というのでしたらまだ話は通りますが「量を減らして荒くする」などということは、全く無謀なことといえます。
私たちはジャーマンローストというコーヒーを開発するにあたり、数年間にわたる使用データを基にしてその「配合。焙煎度合・抽出法」を確立してきたのですから、そう簡単には変えられるものではないとうことなのです。

湯で薄めると水っぽくならないか?
それでは、ジャーマンローストの薄いものを飲みたいと思ったら、どうすればよいのでしょうか。
それはやはり「湯で薄めて飲む」以外にないと思います。
そこで、最後の問題として「湯で薄めると水っぽくならないか」という疑問がおこってきます。
この場合「薄い」ということと「水っぽい」ということを混同されてしまうとどうにも話になりませんので、「水っぽい」というのは「水すなわち湯」がコーヒーの成分と分離している状態」をさすことと定義したいと思います。
そうでないと「薄い」が「水っぽい」では、「薄くて水っぽくないコーヒー」が存在し得なくなるからです。
さて、それでは一体「水っぽい」という現象はどうして起こるのでしょうか。
ご承知のとおり、コーヒーの成分がよく溶けているということ、つまり「水っぽくない」という現象は、コーヒーの成分の分子と、水の分子がよくからみ合っている状態のことです。それがお互いのイオン(正または負の電気を帯びた原子)の状態では、両者の分子がなじみ合わないで分離してしまうことがあるのです。
たとえば、食塩やナトリウムなどは水によく溶けるのですが、ある種の物質を使ってイオンの状態を変えると食塩やナトリウムが水に溶けなくなります。この性質を利用したのがイオン交換樹脂を用いた浄水装置ですが、コーヒーの場合も含まれたタンニンや脂肪類が酸化すると、イオンの状態が変わって水に溶けにくくなります。

良質のコーヒーは水っぽくならない
よく、コーヒー業者の間ではコーヒーを水で薄めて飲むと、良いコーヒーか悪いコーヒーかがわかる」ということが言われていますが、それは古いコーヒーは水と成分が分離しており、水を加えて薄めるとその様子がハッキリわかることを体験から知っているのでしょう。
そういうわけですから、「良質のコーヒーであれば湯と成分がよくなじむ」ので、湯を加えても水っぽくなるという心配は全くありません。
まさか皆さんは、コーヒーの粉やフィルターを通すと、コーヒーの成分の分子と湯(水)の分子が混りあうなどと本気で考えているのではないでしょうね。
分子やイオンの原子の大きさを考えてみれば、フィルターや粉を通すか否かということは、コーヒーの成分が湯(水)に溶けるということと無関係であることがおわかりいただけると思います。
ただし、コーヒーの液の中には、このように成分ばかりでなく、コーヒーの超微粉末が混っており、液中に浮遊していますから、フィルターの目が荒いと舌ざわりがザラつくことがありますが、それも「水っぽい」とは無関係です。

ゼイタクな湯割りコーヒー
実のところをいうと、私も湯で割ったコーヒーを飲むのですが、その時チョッピリとゼイタクをしたい時は。コーヒーの粉を大量に使って濃厚なコーヒーをチョッピリと作り、それを自分の好みの濃さに湯で薄めて飲んでいます。
こうしますと、コーヒーの美味しいエキス分だけが味わえて、最高のコーヒーが楽しめます。
ところで、念のため申し添えますが、このコーヒーを店でご注文されても「マニュアル」にはございませんので応じかねます。悪しからずご了承下さい。

追記
今後、わが国のコーヒーの消費が大きく伸びることが予想されていますが、そうなると欧米など先進諸国の例からみて、「薄いコーヒー」が好まれる傾向が出てくると思います。
事実、私の周辺で「コーヒー好き」で一日に何杯もコーヒーを飲む方ほど「コーヒーは薄めのもの」を飲まれています。
ですから、われわれコーヒーを扱うものにとっては今後「薄いコーヒーの在り方」というこのについては、放置できない重大な意味を持つものとなるでしょう。
これからもこの問題については研究を重ねていきたいと思いますので、読者の皆様方の中で、「薄い」コーヒー」に関する意見がございましたら、ぜひ伺わせていただきたいと思います。
ただし、印象批評ですと論議がかみ合いませんので化学的な論理に基づいてのご意見に限って伺わせていただくことにいたします。
宛先は
〒156
世田谷区松原1-37-20会田ビル
㈱日珈販内 珈琲共和国
「みんなの珈琲学」係
担当者が不在がちですので、お電話でのご意見には応じられませんのでご了承下さいませ。