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コーヒー野郎のコーヒー党宣言  本物のコーヒー飲みになろう!!


1973年1月1日コーヒー党の機関誌「珈琲共和国」より
珈琲共和国1973年1月
 あけましておめでとうございます。
 昨年中は御愛読をいただきましてありがとうございました。今年も引続きよろしくお願い申上げます。
 さて本号からこの欄はコーヒー野郎のコーヒー党宣言とタイトルを変え、私山内豊之が歯に衣を着せないでズバリズバリと書かせていただくことになりましたが、口を開けば角が立ち、人の嫌がることをズケズケ言わぬと気の済まぬ私のことゆえ、イチイチひっかかる論法も多いかと存じますが、その節はドシドシ編集部なり日珈販の本部なりに御意見をお寄せいただきたいと存じます。紙面の許す限り本誌に掲載し、チョウチョウハッシと大いに論議を戦わせたいと思っています。特に、焙煎業者やコーヒー専門店を経営なさっていらっしゃる方の御意見を歓迎いたします。
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昨年12月6日付の日経流通新聞に興味深い記事が載っていました。芦田典介さん(トラベル・システムズ・インターナショナル)のレポートです。
 コーヒー天国のアメリカで若者達のコーヒーの飲用が減り、ソフトドリンクにとって代わられようとしているということなんです。
 その原因はまったくコーヒーそのものにあるのではなくパーコレーターとインスタントコーヒーの普及にあるのだそうです。前者には美味しいコーヒーを淹れる能力が全くないし、後者は本物の味にはほど遠い代物だということで、アメリカ人達はコーヒーの本当の美味しさを忘れてしまったということです。その結果ソフトドリンクの方へ移ってしまいつつあるのだということです。慌てたコーヒー会社では、学校やさまざまの集会に指導員を派遣して正しいコーヒーの淹れ方を教えたり、正しいコーヒーの淹れ方をしているレストランなどにゴールデンカップの表彰を行ったりして、美味しいコーヒーのイメージを取戻すのに懸命だそうです。
 最近日本のコーヒー専門店も、サイホンでコーヒーを淹れたり、インテリアや食器に粋を凝らしたりして客を誘引しているようですが、そんなことばかりに気をとられてカンジンのコーヒーの味をおろそかにしていると、アメリカのようにコーヒーが生活に定着している国でさえも前述の如きありさまですから、日本なんかすぐにコーヒーを飽きられてしまいます。しかし、考え方によれば、演出ばかりでコーヒー専門店のイメージを売込んで商売しているような店は、我々のようにコーヒーと心中しようとまで思い込んでいる珈琲野郎と違ってコーヒーが飽きられれば別の業種へ転向すればいいのですから気が楽です。そんな人達から見れば我々のようにコーヒーにムキになっている連中は馬鹿にみえるかも知れませんが、我々コーヒー党にとっては珈琲馬鹿野郎大いに結構といいたいところです。
 先日銀座で今評判のコーヒー専門店でコーヒーを飲みましたところが、色付カップの底が見えるくらい薄いのには驚きました。砂糖とクリームを入れると、まるで駅売りのコーヒー牛乳の薄いのみたいになってしまって閉口しました。コーヒー豆は売っていませんでしたが、恐らく豆で勝負する自信がないのでしょう。
 私は本当のコーヒー専門店の使命は、美味しいコーヒーと品質の良いコーヒー豆を提供することにあるのではないかと思います。
 皆さんも演出は演出として楽しむとしても、本物の味は目先にとらわれることなくジックリと自分の舌で味わってください。それが本物のコーヒー飲みというものです。

珈琲野郎のコーヒー党宣言 コーヒーは粋に飲もう


1973年2月1日コーヒー党の機関誌「珈琲共和国」より
コーヒー値上げの波紋
珈琲共和国1973年2月
 毎度のように申し上げておりました国際コーヒー協定の新市場問題が、いよいよ大詰を迎えて来たようで、そのまえぶれとしてコーヒー豆の卸売価格の値上げが行われようとしています。
 まさに我々コーヒー党にとっては日珈販ニュースの見出しの如くお寒い春としかいいようがありません。
 新市場問題の方は国際コーヒー協定を審議する理事会そのものが空中分解しそうで、新市場の適用除外そのものはまぬかれたとしても、国際コーヒー協定そのものが効力を失いそうなので、新市場もヘチマもなくなってしまいそうです。
 そうなると現実的に国際相場へ移行してしまうので日珈販ニュースに書いてあるように輸入価格が大幅に上がり、結果的には我々の口に入るコーヒーも上がるということになります。
 これがほかの物でしたら高いものは買わないとボイコットするわけですが、コーヒーがなければ夜も日も明けぬ我々コーヒー党にとっては、口惜しく涙にくれながらもインフレムードでとくに軽くなりがちの財布をはたいてコーヒー代を払う結果となってしまうわけです。
個性をなくす共同焙煎
 さて、これからのコーヒー業界ですが値上げのほかに品質の方でもあまり良いニュースがなさそうです。
 一昨年から昨年にかけて東京アライドコーヒーロースターズやユニカフェというコーヒーの共同焙煎工場が誕生しました。この共同焙煎工場の目的は協業化による企業の合理化ということですから、その主旨そのものには反対できません。しかし、聞くところによると大半の焙煎業者がそれに加入しており、小さな業者は自家焙煎を中止すると聞いております。そうなると、今まで小さな焙煎業者が小さな焙煎機で各自煎っていたものが、大きな焙煎機で一ぺんに煎るものですからどこの豆も同じ味になり個性がなくなります。各自配合は変えるでしょうが、煎り方が同じですから似たような味にしかならないようです。
 つまり各焙煎屋さんの個性が失われてしまうわけです。これは、我々コーヒー党にとっては悲しいことです。
 それにもう一つ気に喰わないことは、そこで使われている焙煎機の種類です。大阪にあるユニオンロースターズを除いてはみんなゴットホット社の大型焙煎機を使っています。これは灯油を燃料として6分間で250キロもの豆を煎り上げる性能を持った高性能の焙煎機です。
 私にはその高性能が気に入りません。高性能であるということは、一度に多量の熱風を焙煎機に送り込み早く乾燥させるから早く煎り上がるのです。
 焙煎業者の側からいえば早く煎り上がるということは好ましいことかも知れませんが、我々コーヒー党から見ると熱風を大量に送り込むということはそれだけ成分(アロマ)を飛ばしてしまうわけですから、みんなカラカラのコーヒーになってしまいます。
 コーヒーなんてものは少々煙臭くたってアロマの充分残っているものの方が美味しいにきまっています。コーヒーらしいムードもあります。それがどうやらこの調子でいくと日本中がカラカラコーヒーを飲まされる結果となります。
 アート、木村、UCC等はみんなこの高速焙煎機を採用していますから、コーヒーがカラカラしています。
珈琲野郎の粋な飲み方
 そんな中で手造りの味を作り続けていこうとすると、なみの苦労ではありません。まごころブレンドの加工先キャラバンコーヒーの社長の永田さんに言わせると、ガス代の値上がりは一番こたえるそうです。
 しかし、キャラバンコーヒーとしては、品質が売り物だそうですから、どんなことがあっても手を抜くようなことはしないそうで、これだけはチョッピリうれしいニュースですね。
 珈琲野郎としては、美味しいコーヒーをだれでも気軽にガブガブと飲めるような社会であってほしいと思うわけですが、食品の不足は世界的な問題で、チリーなどではコーヒーも配給制になったということですから悲観的です。
 だけど考えてみれば飲物なんていうものは、余計なことを考えないで気軽に飲めばいいわけです。
 同じようにコーヒー代を使うのなら、美味しい思いをしたらいいにきまっています。日本人は少し能書きが多すぎますね。
 理屈をつけずに飲む、それが粋というものでしょうなどと言っている本人が一番不粋なようですね。

珈琲野郎のコーヒー党宣言 コーヒー党には知る権利がある


1973年3月1日コーヒー党の機関誌「珈琲共和国」より
珈琲共和国1973年3月

 私がコーヒー党宣言を書きはじめたのが、昨年の四月号でしたからこの号で一年間書き続けたことになります。
 この間に世界的にはベトナムの和平や日本には二度にわたる円に切上げなど、またコーヒー業界ではコーヒーの輸入価格の高騰や共同焙煎工場などの協業化、コーヒー売価の値上げなど話題の多い一年でした。
 そういった動きの中で、私はコーヒー党の立場に立って、コーヒー党として当然知るべき権利を行使しようとすればするほど、コーヒー業界の秘密主義の壁の厚さに驚かされてしまいます。
 私が何か書こうとすると永年取引を重ねてきた相手であっても、まるで貝になったように口を閉じてしまいます。また少しでも彼等コーヒー卸業者達に不利なことでも書こうものなら、その情報を誰が漏らしたかなどという次元の低い詮索ばかりして、自分の誤りを正そうという反省の気配は全くありません。
 まるで沖縄返還交渉における外務省の機密漏洩事件で、政府が国民に嘘をついていたかどうかという点はいつのまにかウヤムヤにしてしまって、西山記者と蓮見事務官に情交があったとかないとかいう話だけがクローズアップされているのと同じことです。
 まして、コーヒー業界における秘密などというものは全く秘密にしておく根拠なんてありません。
 公害企業が害毒を平気でたれ流しておいて、その真偽を確かめようとすると、企業の秘密を楯に調査に応じないのと同様、全く理不尽なことなのです。
 企業の秘密というものは例えばコーヒーの配合の割合とか、焙煎温度の調整の仕方など企業一つ一つが持っている秘密であって、ゴットホットの焙煎機の一般的性能などというのは(カタログ的知識)秘密でもなんでもありません。まして自分の会社の実力をPRしようとするときは、こんなに高性能な設備があるとマスコミなどに発表しておきながら、その欠点を指摘されると企業の秘密を暴露したと怒るのは筋違いです。
 日本の場合はまだ消費者運動が徹底していませんから、コーヒー豆など素人にはよく判らないような商品は適当にゴマカシテ売ることができるでしょうが、アメリカあたりでは間違った宣伝をしたり、宣伝の一部に消費者をあざむくような部分があった場合は、その宣伝に要した費用の三分の一の費用をかけて訂正広告を行うことが義務づけられていてその判定の基準も非常に厳しいそうです。
 広告においてもその位ですから、もし対面販売や品質表示において消費者を偽るような説明を行ったとしたら、その企業は徹底的な糾断を覚悟しなければならないそうです。
 日本のコーヒー業界も、もうこの辺でキワモノ商売から足を洗って、正々堂々と胸を張るような商売をしないと外資系や新興勢力にまたたく間に制圧されてしまいます。自動車のホンダが明治屋と組んでACTコーヒーというレギュラー缶を売り出しましたが、このように従来の業者よりも、資力・企画力に秀れた業者が次々と進出してくることになると、仲間うちでヒソヒソやっているところは、そのうちダメになってしまうでしょう。
 また業務用コーヒーのお得意先だって、今まではいわば水商売のマネージャーマスターの相手だったわけですが、これからは一流企業も飲食業に進出していますから、中途半端な説明なんか通らなくなります。
 私は、私が喫茶店の支配人だった頃、取引先の大手コーヒー会社の課長で現在印刷屋さんとして私のところへ出入りしている田村三郎君とよく話すのですが、「かつて取引のあったコーヒー屋さん達が、さんざんダマシテくれたお陰で私もコーヒー業界に詳しくなった。だから、かつての取引先は私の先生だと感謝しなければいけないのだ」と。
 その度に彼は苦笑いしています。
 だまされるのは、やはりそれだけ本人が不勉強だからです。少なくともプロである以上ダマサレルこと自体恥ずかしいことです。
 もっとも現在の取引先だって結構人をだましてきましたから、もうだまされないつもりでも、もしかしたらやられているかもしれませんが私も大いに勉強して絶対ダマサレないようにしたいと思っています。
 今年の四月で私が喫茶業に足を踏み入れて満十年になります。またコーヒー党宣言も二年目に入りますので来月号以後も一層頑張ってコーヒー党の知る権利を行使すべく書き続けていきたいと思います。