1973年8月1日コーヒー党の機関誌「珈琲共和国」より
過日、第一コーヒー店の高橋専務とお話をする機会を得た。
高橋さんとは、喫茶店経営の対談でお会いして以来のおつきあいである。お互いに忙しい身なので、お話をする機会はほんの数える位しかないのだが、お会いするたびにその見識の高さと知識の豊富さには敬服させられてしまう。
こわいもの知らずのように見える私だが、これでも結構心の中では頭が上がらないとおもっている人がいるものである。高橋さんもその一人である。ぜひ一度ご一緒に仕事をさせていただいて、氏の持っているものを大いに吸収させていただきたいと思っている。
さて高橋さんとお会いしたときの話だが、私は次のようなことを申し上げた。
「私はもうコーヒー業界自身の手による業界革新は断念しようと思う。なぜなら、業界に革新の意識のあることは認めるが、現体制にガンジガラメになってしまって、現状では身動きができないありさまである。
だから、業界の近代化を達成するためには、外部の力(スーパーマーケット等の流通資本や外資系企業)を利用して、業界の現体制を破壊し、その上で新しいコーヒー業界モラルを確立するべきだと思う。
私としては、戦略的には巨大資本の業界介入に手を貸すと同時に、戦略的にはそれらを巨大資本では絶対やり得ない手法によって、我我チェーン網を確立していくつもりである。」
高橋さんにしてみれば、私が破壊をもくろむ当事者であるので、困惑された様子であったが、それでも私の話をよく聞いてくださった。
正直な話、高橋さんのような方と話をしていると、そのようなことを言ってみたものの、業界にもこんな方がおられるのだから、まだまだ既存のコーヒー業界に望みがないわけではないとも思うのだが、日常我々が体験していることを考えると絶望的かつ不愉快なことの方が多い。
その最たるものは、取引先であるキャラバンコーヒーに対する業界の圧力である。
【コーヒー業界に一言】
私の直接的な質問には答えてもらえないが、聞くところによると、コーヒー商組合や商社・生豆問屋筋から、私の発言に関して黙らせろという圧力がかなりかかっているらしい。どうもそれらの話を総合すると、日珈販はキャラバンコーヒーの子会社だと思っている向きが多いようである。この際ハッキリしておくが、キャラバンコーヒーと日珈販との関係は古い取引先という以外の何物でもない。こんなことを書くと、またまたキャラバンコーヒーに迷惑がかかるので、そのようなデマに対しては黙殺してきたのだが、最近、日珈販への加盟希望者や取引銀行からキャラバンコーヒーとの関係を聞かれたりするので、あえて言及した次第である。
コーヒー業界の方と一人一人話し合うと、皆さんはとても理解のある方なのだが、業界としてまとまると何となく私を危険人物視しているようである。いくら危険人物視されようと私は結構だが、そんなことで日珈販がつぶれるようなことにでもなったら、私はそれによって残された負債を返すために、いっそうマスコミにコーヒー業の恥部を売り込んであばきたてるだろうし、巨大資本の手先となって現在のコーヒー業界の破壊に手を貸すだろう。
その時点では、私自身コーヒー業界において失われたものはないのだから、思いのまま暴れればよいのである。
もしそのような事態にでもなろうものなら、得をする人物はだれもいないのだから、反論があれば正々堂々と私に直接いえばいいのである。取引先に圧力をかけて何かしようというのは、私のいうことが正しくて言い負かす自信がないからに違いない。
そうでなければ私のような若僧の言うことは問題にしないで、放っておくはずである。
【日珈販は顧客の立場に立つ】
この機会にもう一言付け加えれば、どんな妨害があっても絶対に日珈販は崩壊しないだろう。なぜなら、今のコーヒー業界のあり方が、業者の作ったものを何でも売りさばこうというのに対して、我々日珈販は、顧客の求めるものをメーカーに作らせて売ろうという考え方に立っているからである。この両者のどちらが栄えるかは、ダイエーがあれだけの妨害を克服して日本一になったのを見ても明白である。私共はきっと、コーヒー業界のダイエーになってみせるだろう。